文学のなかの着物

 とてもお久しぶりになってしまいました。未曾有のコロナ禍、皆様がお元気に過ごされていることを、ただただ願うばかりです。しばらく続きそうな、おこもり時間のひとときに、美しい夢の世界をみせてくれる文学に遊んでみようではありませんか。

谷崎潤一郎の世界

着物好きのご多分に漏れず、私も谷崎潤一郎先生が大好きです。「細雪」や「春琴抄」、「痴人の愛」に「潤一郎訳 源氏物語」まで、読み、集め、芦屋の谷崎潤一郎記念館や、京都のイノダコーヒーでは興奮して気絶しそう、という方、私だけではありませんよね?

潤一郎先生の文学についても語りたいところですが、今日は、1冊で、谷崎ワールドを、そしてそこに登場する着物を存分に楽しめる、素晴らしいご本をご紹介いたします。

「谷崎潤一郎文学の着物を見る」

大野らふさんと、中村圭子さんの共著で、河出書房新社から出版されています。

中身は、「細雪」などの物語に登場する女性と彼女たちの着物をアンティーク着物で再現した写真、登場人物のモデルとなった女性ご本人の写真や、当時のご本の挿絵などで、物語のあらましも説明してくれていますので、読んでいない作品の世界観も楽しむことができます。

いかがわしい!!なんて帯には書かれておりますが、美しくて愉しいのです。

谷崎文学に登場する女性は、奔放だったり、無邪気だったり、高慢だったり、優雅だったり、タイプは様々なのですが、一様に秘めた恐ろしいほどの強さを持っていて、男性、時には女性を、そして読む者を惹きつけて離さないのです。

芸を追究する強さ、自分を愛する強さ、男を愛する強さ、美しいものを愛し続ける強さ、時代に翻弄されても決して投げ出さない強さ。

何があっても、彼女たちは、自分の大切なものを曲げません。

たとえ、人からは理解されない大切なものであったとしても。その強さに、谷崎先生も私たちも、ひれ伏したくなるのかも知れません。

そんな魅力的なヒロイン達が身に着ける着物についての描写も、谷崎文学にはたくさん出てきます。色や形、素材感から手触りまでも感じられるような表現世界で、身に纏う女性たちの個性もひときわ際立ちます。

源氏物語の世界

もうひとつ、ご紹介したいのは、すばらしい漫画です。かの紫式部様の大長編小説、「源氏物語」が1冊で、簡単に楽しく、しかも、お着物までもがざっくりわかる「大掴源氏物語 まろ、ん?」。著者は小泉吉宏さんで、幻冬舎から出版されています。

この漫画がすごい!この一冊で、「桐壷」から「夢浮橋」まで、大掴に読めちゃいます。宇治十帖まで行けちゃうんですよ~!光源氏が可愛い栗のまろ、となって活躍します。

平安時代の装束も、できるだけ実際に基づいて描かれていて、お勉強にもなります。千年以上前の生活風俗を調べあげ、制作にかかるまでに6年も費やされたそうです。その研究結果を、可愛い漫画で1冊にまとめて下さった作者の小泉さんには感謝しかありませんね!

「源氏物語」にも、たくさんの女性が登場し、光源氏を中心に愛憎劇が展開されていきます。光源氏は、女性とみると手を出す女たらしのように言われておりますが、頼りない暮らしをしている女性には、恋を楽しんだ後々までもきっちり生活の面倒をみる心の優しい男性です。

光源氏の住まいである二条のお城には、春夏秋冬の区画があり、それぞれに光源氏の恋人である女性達が住んでいます。新年や何かの行事の折には、みんなに着物を拵えて送ったり、和歌をかわしたりするのですが、それを取り仕切るのが、紫の上。紫の上は会ったことのない他の女性達に、思い悩みながらも、心を尽くして着物などの準備手配をします。

そして、光源氏が選ぶ衣装の色などから、どんな女性なのか推察したりしています。

平安時代の貴族の女性の生活は、日がな一日、お城の中であまり歩くこともなかったようですが、その分、たくさん考えたり、思いを巡らせたりしていたのかも知れません。

「源氏物語」を読むと、春夏秋冬、おりおりに催しがあったり、誰かが元服したり、官位剥奪されたり、幽霊?が出たりで、平安時代のお城の生活も、現在の私たちの毎日と同じように、忙しく、楽しく、悩んだり、悲しんだり、怖がったり、感激したりしています。

その中に、もしかして、自分につながる血筋の方がいたかも知れないなどと思いをはせると、なんだかとてもワクワクしませんか?ご先祖様が十二単を着ていたかも知れない!なんて。

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